2023年 チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門 ~速報!マルセル田所さんの演奏
いよいよ2023年 チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門、第1日目がはじまりました!
マルセル田所さんの本番演奏に加え、プログラム、曲解説、舞台裏などをお伝えします。
またコンクールについての感想も、お話させていただきます。
マルセル田所さんの一次審査のプログラムと曲解説
J.S.バッハ 第2巻 前奏曲とフーガ 第6番 BWV 875 ニ短調
前奏曲は、音階、分散和音などの技巧的な音型からなり、急速に演奏されます。
フーガは三声で、16分音符の3連符と8分音符から成るテーマです。
3連符は緊張感があり、8分音符で緩和されます。
時々現れるタイがもの哀しさを感じさせます。
ベートーヴェン ソナタ 第16番 Op.31-1 ト長調
作品31には第16番、第17番(テンペスト)第18番の3曲のピアノソナタがあります。
第16番は1801年~1802年の間に書かれました。
ちょうどその時期の1802年、ベートーヴェンは難聴を苦にハイリゲンシュタットの遺書を書いています。
しかしその一方で友人には「私は今までの作品に満足していない。今後は新しい道を進むつもりだ。」とも語っています。
この第16番のソナタは、今までとは違った作風に挑戦しているかのような趣きがあります。
第1楽章 Allegro vivace 2/4拍子 ト長調
右手と左手を少しずらした面白いリズムが印象的です。
第2楽章 Adagio grazioso 9/8拍子 ハ長調
長いトリルや半音階的なパッセージが特徴的な、自由な曲。
第3楽章 Rondo, Allegretto 2/2拍子 ト長調
ロンド形式を少し冒険させたような作風で、展開に意外性があります。
ショパン エチュード Op.10-2 イ短調
エチュード作品10は、フランツ・リストに献呈されています。
その中の第2番は、打鍵の力の弱い指、つまり3,4,5の指の強化のために書かれたとされています。
聞くだけではわからない、複雑な指くぐりがある難曲です。
チャイコフスキー 18 の小品より 第4番 「幻想的なダンス」 Op.72-4
素朴で力強い舞曲です。
中間部は一転して高音で優雅に奏でます。
リスト 超絶技巧練習曲 第5番 「鬼火」
全12曲ある超絶技巧練習曲の中でも、特に難易度が高い曲です。
跳躍や左手の酷使の中で、ゆらゆら不気味に揺れる鬼火の雰囲気を出すのはかなり難しいです。
ラフマニノフ エチュード 音の絵 第7番 Op.33-7 変ホ長調
この曲はレスピーギにより管弦楽化されました。
ラフマニノフが「市場の場面」という構想だったとレスピーギに語っています。
華やかで力強いですが、響きのバランスが求められる難曲です。
チャイコフスキー 18 の小品より 第10番 「幻想曲スケルツォ」 Op.72-10
急速な3連符とキッチリした和音が交差する曲です。
中間部は甘いメロディーから謎めいた深みのある音楽に移ります。
この作品集はチャイコフスキーの最晩年に書かれました。
チャイコフスキー作曲の曲を分けてプログラムに取り入れ、この曲を最後に持ってこられたことに、チャイコフスキーへの敬意が感じられます。
マルセル田所さんの演奏
前のコンテスタントに対しての、アンコールを促すような拍手を遮るような形で、マルセル田所さんのアナウンスがはじまりました。
待機しているコンテスタントのすぐ隣で、影マイクを持った方がアナウンスをしているのは、ちょっとおもしろかったです。
演奏前の舞台裏の様子は1:19:50 辺りからです。
ピアノはヤマハ。
マルセル田所さんは椅子の高さを調節し終わるとすぐに演奏されました。
演奏は1:21:19 辺りからです。
演奏する前にたっぷり時間を取られる方もいらっしゃいますが、マルセル田所さんは結構すぐに弾かれます。
体格を生かしたスケールの大きな演奏が魅力的で、テクニックも抜群です。
観客の方々の反応もよかったです。
ベートーヴェンでは少しミスタッチが気になりましたが、表現力がそれを上回っていると思います。
最後に「ありがとうございました」とおっしゃっているのが、口の形からわかりました。
コンクールの感想
1958年からはじまった、伝統と格式あるコンクールですが、ロシア開催ということで難航している様子が伝わってきています。
まず、ショパン国際ピアノコンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクールと並んで世界三大音楽コンクールとされていたのに、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえて、そこから除外されたことが大きいです。
また戦争による危険も重大です。
当然、応募者も激減し、審査員もなかなか決まらなかったようです。
コンテスタントの発表も遅かったために、チケットの売れ行きも芳しくありません。
ホームページを見ると、半数近く売れ残っています。
ロシア情勢から海外からの観客はあまり見込めないのでしょう。
空席が目立つ中、あまりクラシックのコンサートに馴染みのないロシア国内の方が多いように思いました。
というのも、コンクールでは曲間の拍手は普通行われないのですが、1曲ずつ拍手があり、ソナタに至っては1楽章ごとに拍手で中断されていたこともあったからです。
拍手を無視して弾き続けるコンテスタントがいる一方、マルセル田所さんはわざわざ立ち上がって笑みを浮かべておられました。
この拍手が吉と出るか凶とでるかわかりませんが、個人的にはない方がよいと思っています。
マルセル田所さんの演奏後、休憩になったのですが、その後の演奏からは曲間の拍手は無くなったり抑えめになっていました。
注意のアナウンスがあったのでしょうか?
マルセル田所さんにとって、集中力が途切れるなど演奏に支障をきたすようなことになれば、実に運が悪く気の毒なことですが、演奏を聴く限り大丈夫だと思いました。
むしろ、励みになっていたようにも感じられます。
また、ロシア人コンテスタントには絶大で長い拍手を送る一方、他国のコンテスタントにはそれほどでもないような場面もちょっとありました。
一次審査の結果発表は2023年6月22日木曜日24時 (モスクワ時間)です。
日本時間では6月23日金曜日 午前6時頃です。
なお、黒岩航紀さんの出場時間は、日本時間の6月22日木曜日21時30分頃なので、リアルタイムで応援しましょう!
まとめ
2023年チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門、第1日目に出場されたマルセル田所さんの本番演奏、プログラム、曲解説、舞台裏などをお伝えしました。
ロシアがウクライナに侵攻した結果、2023年チャイコフスキー国際コンクールは大打撃を被りましたが、素晴らしい演奏をこれからも楽しみに応援したいと思います。
子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。