背伸びをしすぎる選曲
私が楽器店に勤めだした頃、ドビュッシーの『月の光』を練習していた高校生の生徒さんがいました。
レベルはツェルニー30番位だと思うのですが、正直『月の光』は荷が重いと感じました。
案の定進むのはノロノロで、弾く意欲も感じられません。
とにかく手取り足取り教えて形にして、早く次の実力に合った曲に取り掛かりたいと思いました。
こんなに苦労するなら、どんなに好きだった曲でも嫌いになってしまうのでは…。
ツェルニーは自然消滅したようで、当時は『月の光』の1曲だけのレッスンでしたが、基礎テクニックをつける曲を何かした方がよいと感じました。
『月の光』は有名で綺麗な曲ですが、この曲に至る道のりは容易ではありません。
優雅にゆったり弾いているように聞こえても楽譜は複雑で、ドビュッシーはドビュッシーなのです。
「p(弱い音で)」の表示が多いのですが、その生徒さんの場合、力を抜いているだけでまるで音になっていませんでした。
これほどの曲を弾くには、多彩な音が要求されます。
それに楽譜には書いていない「間」や「息継ぎ」は、ショパンやシューマンなどのロマン派でしっかり勉強するべきだと思います。
また印象派のペダリングも特徴があるので難しいのです。
50番ツェルニーをやっていた方が持ってこられたことがありましたが、その方でさえ相当苦労された曲です。
背伸びをしすぎる選曲は、ピアノを弾く意欲が失われます。
いくら弾きたい曲があっても、その曲にたどり着ける数曲を用意してあげるのが、ピアノ講師の務めではないかと思います。
子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。