m.d.→右手で弾く、m.s.→左手で弾く…m.g.はどちら?
楽譜上で「m.d.」や「m.s.」という記号を見たことはありませんか?
これは右手で弾く、左手で弾く、という指示の音楽用語です。
つまり「m.d.」は右手、「m.s.」は左手を使います。
ところが別の楽譜では「m.g.」という表示もでてきました。
私も先日混同してミスをしてしまったので、整理しておきたいと思います。
実はこれはイタリア語とフランス語の違いで、どちらも結構よく使わるので覚えておきましょう。
省略したおかげで間違えやすいイタリア語とフランス語
こちらはイタリア語です。
m.d.「右手で」mano(手)destra(右)マーノ・デストラ
m.s.「左手で」mano(手)sinistra(左)マーノ・シニストラ
そしてこちらはフランス語です。
m.d.「右手で」main(手)droite(右)マン・ドロワット
m.g.「左手で」main(手)gauche(左)マン・ゴーシュ
「右手」に関しては、単語は違うのにたまたま省略すると同じになってしまったのですね!
右手のm.d.だけを覚えておけば、違う方は左手というわけです。
フランス語はフランス人の作曲家(ドビュッシー、ラヴェルなど)では一般的に使われます。
よく弾かれる手の交差の曲で、ブルグミュラーの『つばめ』も全音版ではフランス語でした。
ブルグミュラーはドイツ人ですが、当時の音楽の中心地であるパリで活動していたので、フランス語も使っていたようです。
「m.g.=左手」の覚え方
実は、フランス語で左という意味の「ゴーシュ」には「不器用な」という意味もあるようです。
確かに右利きの人は左手が少し不器用かもしれません。
宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の主人公のゴーシュは、チェロの演奏があまり上手ではなかったので、宮沢賢治がゴーシュと名付けたという説があります。
セロ弾きのゴーシュ→不器用→左手→m.g.と覚えるのも一つの手です。
ちなみに『セロ弾きのゴーシュ』は演奏の神髄を付いているので、ぜひ興味のある方は読んでみてくださいね。
英語とドイツ語もちょっと似ている
英語も一般的で、こちらは覚えやすいです。
r.h.「右手で」right(右) hand(手)ライト・ハンド
l.h.「左手で」left(左) hand(手)レフト・ハンド
日本人の作曲家などはこちらが多いです。
また日本人の校訂者による楽譜では、原典版のフランス語やイタリア語から英語に置き換えて、こちらを使っているものもたくさんあります。
最後にドイツ語です。
R.H.「右手で」rechte(右) hand(手)レヒテ・ハント
L.H.「左手で」linke(左) hand(手)リンケ・ハント
英語とドイツ語も、単語は違うのにたまたま省略すると同じになってしまったパターンだということがわかります。
しかもドイツ語が大文字だったとは!
シューマンの原典版ではドイツ語が使われています。
アメリカ人のギロックは当然「r.h.」「l.h.」だろうと思い込んでいましたが、大文字で書かれている楽譜もありました。
英語でも大文字の場合もあるので、ざっくり覚えておけばよいでしょう。
右手、左手を区別するその他の方法
今まで音楽記号を説明してきましたが、実は音楽用語を使わずにどちらの手で弾くか示されていることも多いです。
音符の棒や旗を上向きにまとめると右手で、下向きにまとめると左手で弾きます。
ベートーヴェンなどはこちらが多いし、もしかすると一番一般的かもしれません。
きれいに弾ければどちらの手でもOK
余談ですが、私は演奏会本番で右手左手と交互に4音ずつ弾くパッセージを、突然全部右手で弾いてしまったことがありました!
弾いてしまってから「あれ?なんかいつもと違う感覚…」と思いましたが、なんとか無事に弾き終えました。
全部右手で弾いたことに気づいたのは舞台袖にはけてからです。
演奏会修了後に師匠にそのことを伝えると
「全然わからなかったし、どっちの手でもいいのよ」とあっさりしたもの。
事故なく弾けたからよかったものの、後から考えると恐ろしいことをしたものです。
まぁ、日頃の練習の賜物ということにしておきましょう。
まとめ
パッセージなどを演奏する際には、なめらかに弾ければどちらの手を使うかそれほど気にすることはないと思います。
むしろ、どちらの手で弾いているかわかってしまうほうがよくない演奏だと言えます。
また、手の小さい人は、違う方の手で取るというトリックを使うこともあるでしょう。
私も弾きにくいところや手の届かないところは、どちらの手で弾けば自然に聞こえるか悩んで決めています。
でも中には音を強調させるためにわざと違う方の手を使うこともあるので、作曲者の意図を読み取ることも大切ですね!
子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。