2023年 チャイコフスキー国際コンクール ピアノ部門 ~本選のスケジュールと見どころ
2023年チャイコフスキー国際コンクールも大詰めで、いよいよ6月27日から3日間三次審査(本選)がはじまります。
スケジュールと出場者の情報、見どころについてお伝えします。
また、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、第2番について解説しています。
2019年のティアンス・アンの歴史に残る曲順間違いにも触れています。
チャイコフスキー作曲 ピアノ協奏曲
課題曲は「チャイコフスキー作曲 ピアノ協奏曲 第1番または第2番」と「任意の作曲者のピアノ協奏曲(1曲)」となっています。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲では圧倒的に第1番が多く、今回もIlya Papoyan(ロシア)一人が第2番で、他の7人のコンテスタントは第1番を選んでいます。
ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
ピアノ協奏曲の中でも人気の高い一曲です。
特に序奏は一度聴いたら忘れられないでしょう。
チャイコフスキーは、友人でモスクワ音楽院院長のニコライ・ルビンシテインに初演をお願いし、この曲を献呈しようと思っていましたが、意に反してニコライは酷評します。
チャイコフスキーはその後改訂して、名ピアニストのハンス・フォン・ビューローに初演を頼みました。
初演は大成功し、ハンス・フォン・ビューローにこの曲を献呈します。
後にニコライ・ルビンシテインも前言を撤回し、この曲の普及に努めたということです。
今回の本選では、マルセル田所さんが改定前のオリジナルバージョンを演奏される予定でした。
オリジナルバージョンでは、序奏の力強い和音がきらびやかなアルペジオになっています。
聴いてみたかったですね。
この曲の人気が爆発したのは、第1回チャイコフスキー国際コンクールでアメリカ人のヴァン・クライバーンが優勝してからです。
ビルボードのチャートで7週連続第1位となりました。
クラシック音楽がこのような快挙を遂げたのはこの時限りです。
ピアノ協奏曲 第2番 ト長調 Op.44
約5年後、こちらは念願叶い、ニコライ・ルビンシテインに献呈されました。
初演もニコライ・ルビンシテインがするはずでしたが、残念ながらニコライ・ルビンシテインは急病で亡くなってしまったということです。
第1番に比べると影の薄い作品と言われ、演奏される機会もあまりありません。
第1番がピアノの魅力を存分に伝えるのに対して、第2番は管楽器に埋もれてしまうこともあります。
いかにこの曲の魅力を最大限に伝えることができるのかが、コンテスタントの挑戦です。
本選 第1日目スケジュール
Stanislav Korchagin (ロシア) 1993年生まれ
6月27日(火曜日)18時~(モスクワ)
日本時間は27日 深夜0時~
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 Op.16
Xuanyi Mao (中国) 1995年生まれ
6月27日(火曜日)19時45分~(モスクワ)
日本時間は27日 深夜1時45分~
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
ブラームス ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83
Sergei Davydchenko(ロシア) 2004年生まれ
6月27日(火曜日)21時30分~(モスクワ)
日本時間は27日 深夜3時30分~
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 Op.16
ロシアのお二人は奇しくも同じプログラムになっています。
しかも本選出場者の最年少と最年長です。
どのような演奏をされるか、聴き比べが非常に楽しみですね!
本選 第2日目スケジュール
Ilya Papoyan(ロシア) 2001年生まれ
6月28日(水曜日)18時~(モスクワ)
日本時間は28日 深夜0時~
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第2番 ト長調 Op.44
ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 Op.30
George Harliono(イギリス) 2001年生まれ
6月28日(水曜日)19時45分~(モスクワ)
日本時間は28日 深夜1時45分~
ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 Op.18
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
Angel Stanislav Wang(アメリカ) 2003年生まれ
6月28日(水曜日)21時30分~(モスクワ)
日本時間は28日 深夜3時30分~
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
ブリテン ピアノ協奏曲 ニ長調 Op.13
まず、Ilya Papoyan(ロシア)が、ただ一人チャイコフスキーの第2番協奏曲を弾くので注目が集まるでしょう。
また、ブリテン作曲のピアノ協奏曲はあまり演奏される機会がないので、ご存じない方も多いかと思います。
ブリテンは20世紀のイギリスを代表する作曲家です。
ちょっと聴いてみるとラヴェルの協奏曲に似た雰囲気もあり、すごく楽しめそうです。
本選 第3日目スケジュール
Suah Ye(韓国) 2000年生まれ
6月29日(木曜日)18時~(モスクワ)
日本時間は29日 深夜0時~
ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 Op.30
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
Valentin Malinin(ロシア) 2001年生まれ
6月29日(木曜日)19時45分~(モスクワ)
日本時間は29日 深夜1時45分時~
スクリャービン ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 Op.20
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
最終日はオールロシアの作曲家です。
個人的にはValentin Malinin(ロシア)の二次審査のスクリャービン ソナタが非常に良かったと思ったので、スクリャービンのピアノ協奏曲も楽しみです。
2019年本選でのアクシデント
ところで、協奏曲は続けて2曲演奏されるのですが、前回2019年に起こってはいけないことが起こってしまいました。
20歳のティアンス・アン(中国)は、1曲目に「チャイコフスキー作曲 ピアノ協奏曲 第1番」を、2曲目に「ラフマニノフ作曲 パガニーニの主題による狂詩曲」を申請していたのですが、どこでどう間違えたのか、逆になっていました。
ご存じの方も多いと思いますが、今一度ご覧ください。
舞台袖で待機しているピアニストと指揮者。
アナウンスでは「チャイコフスキー作曲 ピアノ協奏曲 第1番」が最初にコールされましたが、指揮者はおかしな顔をされています。
言葉の壁もあったので、ミスは防げなかったようです。
ピアノの椅子に座ると、オーケストラの演奏はチャイコフスキーではなくラフマニノフでした。
ラフマニノフの方はイントロが3秒ほどしかありません。
もうジェットコースターのように走るしかありませんでした。
「天城越え」を歌う気満々で心の準備をしていたのに、いきなりイントロの短いBTSの「butter」がはじまったようなものです。
ティアンス・アンは一瞬怪訝な表情をされましたが、すぐに気持ちを切り替えて最後まで見事に演奏されました。
さらに驚くことに、この舞台が彼の初コンチェルトだったそうです。
つまりオーケストラとの共演が初めてだったという訳です。
スタッフ側の完全なミスですが、ティアンス・アンは抗議することもなく、すべてのハプニングは自分の財産になると受け止めました。
この件で特別賞が授与されました。
もちろんこの後人気が爆発したのは言うまでもありません。
子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。