【緊急】牛田智大さんの演奏プログラムを徹底解説〜本大会1次予選編|第19回ショパン国際ピアノコンクール
いよいよ間近に迫ったショパン国際ピアノコンクール。
今回は大注目ピアニスト・牛田智大さんの本大会1次予選の演奏プログラムを、ピアノ初心者の方にもわかりやすく解説していきたいと思います。
昨日演奏スケジュールが発表されましたが、牛田さんは日本時間で10月3日(金)18:00から演奏されますね。
YouTubeでは大会がライブ配信されますが、曲のことを知ってから演奏を聴くと演奏を何倍も楽しめると思います。
ぜひ最後までご覧くださいね。
ノクターン ロ長調 Op.62-1
「ノクターン ロ長調 Op.62-1」は、ジョルジュ・サンドと破局を迎えたショパン36歳頃の作品です。
この3年後にショパンは人生を終えますが、Op.60の「舟唄」、Op.61の「幻想ポロネーズ」など、この時期にも素晴らしい大作を残しました。
若い頃のノクターンより装飾が複雑で、和声の移り変わりも繊細です。
派手な感情の起伏というより、内面の揺らぎや、ため息のようなニュアンスを音にしているのが特徴です。
華やかな技巧で見せつけるタイプではなく、耳を澄ますほどに表情が増え、聴けば聴くほど味わいが出てくるでしょう。
夜想曲(ノクターン)という名前のとおり、夜のイメージを持つ音楽ですが、この曲の夜は、真っ暗ではありません。
ロ長調という明るい調性の光が、絶えずかすかな陰影と出会って、晩年のショパンがたどり着いた静かな円熟を感じさせます。
左手は一定の脈を刻むように、ゆったりとアルペジオを重ねています。
その上で右手のメロディーが、言葉を話すように「吸って、吐いて」と呼吸します。
この曲をはじめて聴かれる方は、左手の一定の歩みを“土台”として聴き取り、右手がその上で少し自由に前後する感覚を味わってみてください。
これはショパンのルバートの基本で、「伴奏は時間を守り、旋律は心のままに」という考え方が耳でわかる場面です。
再現部は、美しいトリルなどの装飾音で彩られるのですが、ショパンが自分の死を受け入れて静かに微笑んでいるようです。
牛田さんはきっと、この曲の特徴であるピアニッシモの素晴らしい表現を魅せてくれるでしょう。
美しく歌う旋律、陰影をつくる和声、そして最後に残る静けさの余韻をぜひ楽しんでください。
エチュード ハ長調 Op.10-1
「エチュード ハ長調 Op.10-1」は、ショパン20歳頃の作品です。
いわゆる「練習曲」でありながら、舞台でそのまま演奏される芸術作品としても愛されてきた曲です。
ショパンが20代前半に書いた「12のエチュード Op.10」は、ピアノの技法を一気に前進させた画期的なセットで、友人でもあったリストに献呈されています。
Op.10-1はその冒頭を飾る一曲で、テーマはずばり「広い音域をまたぐアルペジオの美しさと均整」。
ピアニストにとっては右手の各指の大きな開きと持久力が試される超難曲です。
聴き手にとっては「ピアノという楽器がこれほど大きく、明るく、立体的に鳴るのか!」と驚かせてくれる、Op.10の入口にぴったりの華やかさを持っています。
右手は大きく駆け上がるアルペジオの連続で、明るいハ長調の響きが一気に広がります。
その豪快さから、英語圏では “Waterfall(滝)” の愛称で呼ばれることもあります。
とはいえ、ただ速く派手なだけの曲ではありません。
アルペジオのいちばん上に現れる音を耳で追ってみると、そこに細く一本、歌うような旋律が通っています。
キラキラと舞う無数の音粒の上に、静かに歌が浮かぶこの二層の聴こえ方が、この曲の魅力の一つです。
左手は低音で土台を支えつつ、ときどき和音を変えて景色を切り替えます。
その和声の移り変わりにつれて、曲は明るい場所から少し影のある響きへ、また晴れやかな響きへと旅をします。
終盤にかけては、音の密度が高まりながら緊張感が増し、最後は眩しいほどのハ長調で閉じられます。
町のピアノ講師である私の練習体験談として、この曲のポイントは3つありました。
1つ目は、自分に合った最適な指づかいを確立すること。
私はパデレフスキ版を使っていましたが、習っていた当時はまだ手が今より小さかったため、師匠が私に合う指づかいを書いてくださいました。
2つ目は、とにかく右手のミスタッチをしないこと。
1音外せば違う和音のアルペジオになってしまうので恐ろしいです。
しかもスピードもいるので、指の開き具合の記憶や運動神経、手首の柔らかさなども要求されます。
3つ目は表現力。
左手の重厚なメロディーに対して、右手のアルペジオが陰になり日向になり色を付けます。
感情のおもむくままに…ではなく、しっかりとした分析と構成力が必要です。
こんな素晴らしい曲がアルペジオの練習になるなんて良い事づくめですね!
ワルツ 第5番 変イ長調 Op.42
「ワルツ 第5番 変イ長調 Op.42」は、ショパン30歳頃の作品で、ショパンのワルツの中での最高傑作、と言われています。
聴いた瞬間に空間がぱっと明るくなるような、きらめきと機知に満ちた作品です。
この曲のいちばんの面白さは、ワルツなのに「二拍子っぽく」感じさせるところです。
普通のワルツは「1・2・3」と三つの拍を感じますが、この曲ではフレーズのまとまりやアクセントの置き方が巧妙で、「1・2/1・2」と、2拍で、スイスイ進むように聞こえる瞬間がたびたび現れます。
これは“ヘミオラ”と呼ばれる古くからある手法で、耳に心地よい3拍子のゆらぎと、まるで踊り手がくるりと2歩で回転するような軽やかさを生み出します。
性格がふっと変わる中間部は、声楽のアリアのように息が長く、先ほどのきびきびした主題との対比で、音楽に立体感と陰影が生まれます。
やがて最初の主題が戻ってくると、表情はさらに明るく磨かれ、終盤はテンションが高まり、眩しい余韻を残してくれます。
華やかさと知的な遊び心が絶妙に同居したこのワルツは、クラシックに不慣れな方にもとても親しみやすいと思います。
軽く目を閉じて、パリのサロンに差し込む午後の光を想像しながら聴いてみてください。
三拍子が二歩で滑り出す独特の快感に気づいた瞬間、きっともう一度、最初から聴きたくなっているはずです。
前回大会で優勝したブルース・リウもこの曲を弾きましたが、手は目まぐるしく動きながら、両足は踊るようなステップを刻んでいたのが印象的でした。
演奏するときの力の使い方、抜き方が、常人には到底不可能なレベルでした。
牛田さんがポーランドで培ってきた音楽が楽しみな1曲です。
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
「舟歌 嬰ヘ長調 Op.60」はショパン晩年の傑作の一つで、35〜36歳頃に作曲されました。
ちょうど恋人のジョルジュ・サンドとの関係が終わりかけていた時期の作品です。
題名の通り「バルカローレ」と呼ばれるヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの舟歌を思わせる作品で、ゆったりと揺れるリズムに乗せて柔らかく歌う旋律が特徴です。
調性の嬰ヘ長調は澄んだ光沢を持ち、まるで水面に陽の光が反射するような明るさを音色に与えます。
難しい理屈を知らなくても、穏やかな揺れと歌心を感じるだけで十分に楽しめる曲です。
舟歌の典型である6/8拍子をさらに延ばした12/8拍子を用い、息の長いフレーズをより流麗に歌わせています。
まず、左手の“揺れ”に耳を澄ませてみてください。
オールが水をとらえるたびに波が寄せては返すような、規則的でありつつ生き物のようにしなやかなうねりが、曲の最初から最後まで途切れず続きます。
序奏に続く第1主題はまさにゴンドラの歌そのもので、優美で叙情的です。
音量が大きくなるところでは波が高くなり、静まるところでは夕暮れの水面に戻る。
そんな景色を思い浮かべると、曲のドラマがぐっと近くなります。
高音で転がる装飾音は水しぶきのきらめき、低音で鳴る和音はゆったり進む船体の重み。
こんな想像してみるのもおすすめですよ。
その後、メロディーは同じ場所に留まらず、少しずつ飾りが増え、音域が広がり、呼吸が深くなっていきます。
途中では風が強まるように情熱が高まり、半音階のきらめきが水面に走る光の筋のように聴こえる瞬間もあるでしょう。
複数の主題やエピソードが展開され、調性を変えながら徐々に音楽は情熱を帯びていき、最後は解放感と希望に満ちた華麗なコーダでクライマックスを迎えます。
穏やかな水の揺らぎと、そこに浮かぶさまざまな感情の色合いを、牛田さんがどのように見せてくれるか楽しみですね。
まとめ
牛田智大さんが本大会1次予選で演奏される4つの作品を解説しました。
本大会1次予選ではすべて長調の曲でまとめられましたね。
晩年の円熟した表現が美しい「ノクターン ロ長調 Op.62-1」
技巧と芸術性を兼ね備えた「エチュード ハ長調 Op.10-1」
知的な遊び心と華やかさが魅力の「ワルツ 変イ長調 Op.42」
そして、情熱と叙情が織り交ざる「舟歌 嬰ヘ長調 Op.60」
どの作品も、ショパンの異なる魅力を味わうことができる素晴らしい選曲です。
牛田さんがこれらの楽曲に込める想いと、長年培ってきた音楽性を堪能しましょう。
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子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。











