Top >  ブログ  >  【さあ2次】牛田智大さんの演奏プログラムを徹底解説〜本大会2次予選編|第19回ショパン国際ピアノコンクール

【さあ2次】牛田智大さんの演奏プログラムを徹底解説〜本大会2次予選編|第19回ショパン国際ピアノコンクール

2025.10.09

さあ、ショパン国際ピアノコンクール、本大会2次予選です。

牛田智大さんが2次予選に進出されて、まずは、ホッとしております。

では、1次予選の際同様、本大会2次予選の牛田さんの演奏プログラムを、ピアノ初心者の方にもわかりやすく解説していきたいと思います。

牛田さんは10月12日の夜、日付が変わって10月13(月)0時から本大会2次予選で演奏されますね。

YouTubeでは大会がライブ配信されますが、曲のことを知ってから演奏を聴くと演奏を何倍も楽しめると思います。

ぜひ最後までご覧ください

マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5

マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5」は、その名のとおり古典的なロンド形式で書かれ、ポーランドの舞曲マズルカの味わいを溶かし込んだ作品です。

ショパンが16歳のときにワルシャワ音楽院で学びながら作曲し、2年後に出版されました。

のちのショパンらしさがすでに光る、きらっと明るい初期の名作です。

この曲はヘ長調なのに“シ”がフラットではなくナチュラルで鳴る場面があります。

これは“リディア旋法”と呼ばれる教会旋法の一つです。

恐るべし16歳!

まず、タイトルにある“ロンド”は、A—B—A—C—A…のように主題Aが何度も帰ってくる構成のこと。

冒頭、4小節の短い序奏のあとに現れる主題は、まさにマズルカのステップそのものです。

ここで、ショパンのマズルカについて簡単にご説明させていただきます。

ポーランドには5つの民族舞曲があり、その一つがポロネーズです。

ショパンはあとの4つの中からマズール、オベレク、クヤヴィアクという3拍子の舞曲を組み合せることによって、マズルカという舞曲を誕生させ、芸術的に高めました。

ショパンは4つのロンドを作曲しましたが、3拍子はこの曲だけというのもユニークです。

副主題やエピソードでは、同じ3拍子でも表情が次々と変わっていきます。

軽い跳躍や左手の踏み鳴らすような響きが、田園の踊りの熱気を思わせます。

全体の長さは約9分ありますが、何度も戻ってくる主題が道しるべになり、迷わず楽しめます。

聴くときは、体の中で「イチ・ニ・サン」と3拍子を小さく感じながら、2拍目や3拍目にふっと重心が寄る瞬間に耳を澄ませてみてください。

主題が帰ってくるたびに、その揺れが少しずつ鮮やかになっていくのがわかるでしょう。

明るく歌う副主題

きびきびした踊りのコントラスト

そして、終わりに向かって勢いを増すコーダの爽快感を味わいましょう。

少年のような柔らかな表情で演奏される牛田さんが想像できますね。

ピアノソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35「葬送」

ピアノソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35「葬送」は、重い題名に身構えてしまいがちですが、実は「どう音が動いて、どこで呼吸するのか」を耳で追っていくと、とても分かりやすいドラマが見えてくる作品です。

全4楽章で、およそ25〜30分。

今大会では、第1楽章提示部のリピートは無しというルールなので、少し短くなります。

世界中で知られる「葬送行進曲」の第3楽章が中心にあり、その前後を取り巻く楽章が物語の光と影をつくっています。

曲名の「葬送」はショパンが付けたのではなく、あくまで第3楽章の標題から自然に広まった呼び名です。

このソナタは、葬送行進曲の部分を27歳頃に先に書き、その2年後に残りの楽章を整えて全体がまとめられています。

ベートーヴェンの「がっちりした」ソナタに対して、ショパンは自分の語り口を優先しました。

そのため、発表当時から「まとまりが奇妙だ」と評する声もありましたが、今ではむしろ、独特のバランスで一つの叙事詩を描いた名作として愛されています。

第1楽章は、重々しい序奏のあと、急に地面を蹴って走り出すように第1主題が始まります。

低音が心臓の鼓動のように脈打ち、右手は切り裂くようなモチーフで応じます。

第2主題はどこまでも甘く美しく、第1主題との対比が素晴らしいですが、2つの主題がまとまって見事な終わりを迎えます

第2楽章は、立体感のあるスケルツォ。

速いテンポで、アクセントのはっきりした陰影の濃いフレーズが飛び交います。

中間部ではふっと霧が晴れるような明るい歌が差し込みます。

ここは「影→光→影」という切り替わりの瞬間を楽しみましょう

そして、第3楽章「葬送行進曲」。

ゆっくりとした足取り

沈むような低音

ため息のような装飾

すべてが列をなして進む葬送のイメージです。

拍を1、2、3、4と、静かに数えながら聴くと、重さのなかにも歩幅があることに気づきます。

真ん中では一転して、遠くを思い出すような柔らかな長調の歌が現れ、時間が止まったかのように空気が澄みます。

やがて行進が戻ってきて、音は消え入るように終わります。

悲しみの音楽ではありますが、嘆きに沈むのではなく、儀式の秩序と気品によって気持ちが整えられていくようです。

終楽章のプレストは、初めて聴くと驚くかもしれません。

和音らしい和音がほとんど出てこず、両手が掴みどころのない薄い風のようにすべり続け、突然の切れ目で終わります。

亡骸を見送ったあと、残るのは言葉にならない風景だけ

というような余白。

この曲は主題を探すより、音の肌ざわりや、最後に訪れる静けさの質感をそのまま浴びるのがいちばんだと思います。

牛田さんはこのソナタでどんなドラマを見せてくれるのでしょうか。

気品あふれる演奏であることは間違いないです!

プレリュード Op.28-19~24

24のプレリュード Op.28」は、1曲あたり1~2分前後の短い曲を24個つないで、長編のような起伏をつくった傑作集です。

作曲は25~29歳ごろ、主にパリで進み、ジョルジュ・サンドと冬のあいだを過ごしたマヨルカ島で仕上げられました。

ソナタ第2番「葬送」とも、時期が重なっています。

ショパンが尊敬してやまないJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集と同じく、全ての長短調24個で書かれましたが、配列も性格もまったく違います。

6曲を通して聴くと、変ホ長調→ハ短調、変ロ長調→ト短調、ヘ長調→ニ短調と、長調とその平行短調をペアにして五度圏で進む独自の順番で、聴くと隣り合う曲の色合いが自然につながるのが特徴です。

順番の“意味”を知ってから聴くと、短い曲たちが驚くほど豊かな物語として響いてくるでしょう。

終盤の第19~24番は、その連作のクライマックス

明るい長調がふと翳って短調へ落ち、また光が差し、最後に激しい嵐で締めくくる

そんな流れを順に辿ってみましょう。

第19番は変ホ長調

両手が三連符で絶え間なく駆け、きらめく粒が鍵盤の上で跳ね続けます。

右手と左手が呼び交わすように広い音域を渡るので、音の光が左右に走る感じがとても楽しいです。

第20番はハ短調

和音進行だけで進む、厳かで重々しい13小節の作品です。

右手は分厚い四分音符の和音、左手はオクターブで支え、音と音のあいだに沈黙が広がります。

途中でささやくように戻る反復があり、胸の内で波がふくらんでは、また静まっていきます。

1つ1つの和音がどんな表情で鳴っているか、耳を傾けてみましょう。

第21番は変ロ長調

「Cantabile(歌うように)」の言葉どおり、右手が素朴な歌をつむぎ、左手は二重音のなめらかなうねりで色を変えていきます。

実はこの左手がとても表情豊かで、半音階的ににじむ内声が、曲の明るさの中にほのかな陰影を与えています。

メロディだけを追うのではなく、低いところで色が溶け合う感じを聴き取ると、音楽の奥行きが一気に見えてきます。

第22番はト短調

付点リズムが切迫感を生み、低音のオクターブが地鳴りのように曲を引っぱります。

冒頭のリズムが止まることなく押し寄せ、短い中にも嵐のような緊張が張りつめます。

前のめりになる推進力をつかむと、曲の焦燥感がはっきり聴こえてきます。

第23番はヘ長調

左手の旋律が主役で、右手の細かな十六分音符がさらさらと流れ続けます。

ヘ長調らしいやわらかな木漏れ日が歌を包んでいるようです。

第24番はニ短調

終曲にふさわしく、情熱的で速い曲です。

低音で鳴りはじめる5音の音型が、最後まで執拗に脈打ち、右手はその上で切り裂くように走り、うなり、叫びます。

低音の音型がどんな調や和音に染め替えられていくかを追いかけると、音のドラマが鮮明に立ち上がります。

途中に現れる怒涛のスケールは印象的です。

超低音の強烈な3つの連打ですべての幕が閉じます。

弾き終わった後の余韻を味わってください。

英雄ポロネーズ 変イ長調 Op.53

英雄ポロネーズ 変イ長調 Op.53」は、華やかさと気品、そして燃えるような力強さが同居する、ショパンの代表作のひとつで、33歳頃に書かれました。

ショパンは若くして祖国ポーランドを離れ、主にパリで作曲と演奏活動を行いました。

30歳頃から、恋人ジョルジュ・サンドの別荘で多くの作品を書きましたが、ポロネーズやマズルカという祖国の舞曲は、彼の精神的な支えでもありました。

ショパンは祖国ポーランドの誇りと郷愁をポロネーズの形式に託して、数多くの名作を生みましたが、とりわけこの変イ長調のポロネーズは、のちに「英雄」と呼ばれるにふさわしいスケールの大きさと高揚感を持っています。

単に派手だからではなく、悲しみや闘志を抱えつつも気高く立ち上がるポーランドの姿が、音の運びやリズムの足どりから自然と伝わってきます。

最初に「Maestoso(荘厳に)」という言葉どおり、胸を張って一歩目を踏み出すような堂々たる序奏が鳴り響きます。

大きく広がる和音と跳躍が空間を切り開き、そのあとに現れる主題は、まるで行進の先頭で旗が翻るように誇らしく力強いです。

三拍子の1拍目を土台にした重心のあるリズムが、音楽の背骨をしっかりと支え、右手はそこに気品のある旋律を重ねていきます。

中間部では、雰囲気がぐっと熱を帯びます

とりわけ有名なのが左手オクターブの高速な動きで、音楽に推進力と緊迫感を与えます。

ここはまさに聴きどころで、低音のうねりが太鼓のように鼓動を刻み、その上で右手がきらめく装飾や力強いフレーズを繰り出します

嵐のような盛り上がりのあと、ふっと視界が開ける瞬間が訪れ、再び堂々たる主題へと帰ってくると、まるで長い道のりの末に凱旋したような快感が生まれます。

全体の長さは約7分。

「英雄ポロネーズ」は、華やかな超絶技巧のショー・ピースであると同時に、気高さやプライドを語る物語でもあります。

起承転結がはっきりしているので、クラシックを聴き慣れていない方でも、流れを追いやすいのが魅力です。

最後に変イ長調の強い和音が鳴り渡ると、聴き手の胸にも「やり遂げた!」という清々しさが残るでしょう。

勇ましいだけではない、しなやかな気品と温かさがじんわりとにじむ牛田さんの演奏を、はやく聴きたいですね!

まとめ

牛田智大さんの本大会2次予選の演奏プログラムを解説しました。

いかがでしたでしょうか。

どの作品にも、牛田さんの音楽性が美しく映えそうな魅力が詰まっています。

16歳のショパンが書いた初期の輝き

深い精神性を宿した葬送ソナタ

色彩豊かな24のプレリュード

そして、祖国への誇りが込められた英雄ポロネーズまで

名曲を通じて、牛田さんがどんな音楽の物語を紡いでくれるのか、本当に楽しみです。

きっとコンクール会場には、技巧と歌心が絶妙に調和した、牛田さんらしい気品あふれる演奏が響き渡ることでしょう。

お知らせ

ピアノレッスンのご相談も随時受け付けております。

LINEレッスン、お気軽にご相談ください。

ショパン国際ピアノコンクールに関連する他の記事はこちら↓↓

YouTubeでも情報を発信しています。

チャンネル登録をよろしくお願いします!

 
LINEレッスンの画面イメージ

PianeysのピアノLINEレッスン

LINEで動画を送るだけ!
たったの2日で魅力的な演奏に

 
Pianeys(ぴあにーず)
物書きピアニスト

子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。

  • Twitter
  • Facebook
  • YouTube
PianeysのピアノLINEレッスン
  • YouTube

    発表会で弾くのにオススメの曲を多数紹介。チャンネル登録者数 1.5万人突破!チャンネル登録をよろしくお願いします♪

    YouTubeへ

  • Twitter

    Twitterへ

  • Instagram

    Instagramへ

  • TikTok

    TikTokへ

PianeysのピアノLINEレッスン