【セミファイナル後半戦】亀井聖矢さん、最終日に圧巻のコンチェルト!吉見友貴さんのバロック×ロマン派と中川優芽花さんの「ジュノム」
エリザベート王妃国際音楽コンクール ピアノ部門の、セミファイナルの後半戦が終了しましたね。
今回は、吉見友貴さんのリサイタル、中川優芽花さんのコンチェルト、そして、亀井聖矢さんのコンチェルトについて、演奏を聴いた感想をお伝えしていきます。
吉見友貴さんのリサイタルを聴いて
吉見友貴さんは、5月15日(木)セミファイナル4日目の22時からの部に登場され、リサイタルを披露されました。
演奏プログラムは、
アナ・ソコロヴィッチ作曲:ピアノのための2つの練習曲(新作課題曲)
D.スカルラッティ作曲:ソナタ K.27 ロ短調
ブラームス作曲:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op.24 変ロ長調
以下、私が聴いた感想が続きます。
アナ・ソコロヴィッチ作曲:ピアノのための2つの練習曲
エリザベート2025のために作曲された新作課題曲です。
アナ・ソコロヴィッチはセルビア出身で、現在はカナダのモントリオールを拠点にして作曲活動をされています。
レパートリーは幅広く、特にオペラを中心に高く評価され、これまで数多くの受賞に輝きました。
バルカン半島の民俗音楽などからインスピレーションを受けて作曲されるそうです。
2曲とも超がつく難度の高さで、正直楽譜を見ている余裕はあまりありません。
吉見さんはタブレットを使い、譜めくりはフットペダルでした。
1曲目はあらゆる指でのトリルや同音連打などの細かい音符が幻想的で、メロディーは民族的な音楽です。
不思議な空間に迷い込んで、あちらこちらからの音の反響を受けている印象だったのですが、タイトルが「Fog」だということが新たにわかりました。
吉見さんはタイトルのイメージに近く、少しゆっくりめで「静」を強調して、より幻想的に弾かれました。
異国情緒豊かな曲ですが、不思議と東洋らしさも感じました。
同じ曲でも演奏者によって特に個性が出る曲だと思います。
2曲目も民俗音楽の香りがする現代音楽で、エネルギッシュで超絶技巧満載です。
こちらのタイトルは「Dance」。
吉見さんは「動」を表現されたと思います。
休符でピアノの底を下から叩くところは、グーで叩いたりパーで叩いたりと、細やかな気遣いが見えました。
ヴァン・クライバーンでも新作課題曲がありますが、審査員の一人が作曲するというルールがあります。
エリザベートではアナ・ソコロヴィッチ氏が客席にいらっしゃいました。
D.スカルラッティ作曲:ソナタ K.27 ロ短調
スカルラッティはイタリアの作曲家です。
この曲をはじめ、多くのソナタは音楽の家庭教師をしていたポルトガルの王女(後のスペイン女王)のために作曲されました。
当時はチェンバロで演奏されていたと思いますが、吉見さんは現代のピアノでエレガントで美しく演奏され、さらに表現が立体的になりました。
ブラームス作曲:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ Op.24 変ロ長調
さわやかなスカルラッティのソナタに対して、重厚感のあるブラームス。
ちなみに、ヘンデルとD.スカルラッティは同い年です。
その辺りも意識されたのではないでしょうか。
バロックとロマン派の融合に選曲のセンスの良さが光ります。
8小節のテーマに続いて25の変奏があり、最後はフーガで締めくくられます。
楽曲分析が大好きという吉見さんの腕の見せ所です。
とても知的で冷静に表現されていて、ブラームスの変奏が1つ1つ際立っていました。
柔らかいppからきらびやかな超絶技巧まで、吉見さんの音色に魅了された方も多いのではないでしょうか。
重厚なffですが、ちょっと弾きすぎていると感じるところもあり、ホールではどのように響いているのか気になりました。
吉見さんは現在はダン・タイ・ソン氏のもとで研鑽を積んでいます。
ダン・タイ・ソン氏は、前回のショパンコンクール優勝のブルース・リウ他、たくさんのお弟子さんを育てておられます。
吉見さんの個性を伸ばすレッスンをされていることを強く実感しました。
中川優芽花さんのコンチェルトを聴いて
中川優芽花さんは、5月16日(金)セミファイナル5日目の22時からの部に登場され、コンチェルトを披露されました。
演奏された曲は、
モーツァルト作曲:ピアノ協奏曲 第9番 K.271 変ホ長調
モーツァルトが21歳頃の作品で、「ジュノム」の愛称で知られています。
ジュノムという愛称については謎めいていましたが、モーツァルトの友人でフランス人舞踏家の娘、ジュナミ夫人が由来であることがわかってきました。
初期の協奏曲の中では、ひと際高い技術を要し、人気のある作品です。
この曲にはモーツァルトが作曲したカデンツァが複数残されています。
おそらくモーツァルト自身が演奏する機会が多かった作品なのでしょう。
なお、カデンツァとは、特にピアノ協奏曲において見られる即興的な独奏パートのことです。
オーケストラが静かになり、ピアニストだけが自由に技巧を披露する華やかな場面です。
「さあ、ここからはピアニストの見せ場!」
という特別なセクションと考えるとわかりやすいでしょう。
前置きとも言えるアインガングも登場します。
第1楽章 Allegro
軽やかな素直な音で、トリルも大変美しかったです。
中川さんはお顔の表情が豊かで、どのような音を出そうとされているのかが一目瞭然です。
フレーズごとに細かく考えられていて、しかも統一感があり、素晴らしかったです!
第2楽章 Andantino
ピアノソロのパッセージが美しく穏やかな楽章です。
物悲しく侘しい気持ち、喪失感も強く感じられます。
中川さんは多彩な音色で情感豊かに演奏されました。
第3楽章 Presto
軽快な主題が何回も登場する大規模なロンドです。
技巧的で派手なパッセージは品格があり、中川さんの真骨頂です。
この楽章はテンポ設定がむずかしく、速すぎるとオーケストラとピアニストがズレてしまう可能性があり、無難にすると曲の魅力が乏しくなります。
斜め後ろで演奏されているコンサートマスターが、中川さんの演奏に対して好意的な様子が伺えたので、きっとバッチリのテンポだったのでしょうね。
演奏終了後は大歓声で、中川さんの満面の笑みがとても可愛らしかったです。
亀井聖矢さんのコンチェルトを聴いて
亀井聖矢さんは、5月17日(土)セミファイナル最終日の22時からの部に登場され、コンチェルトを披露されました。
演奏された曲は、
モーツァルト作曲:ピアノ協奏曲 第15番 K.450 変ロ長調
モーツァルト28歳頃の作品です。
この頃のモーツァルトは演奏会活動を活発に行い、演奏会で披露するための作曲活動も盛んでした。
特にピアノ協奏曲を第14番から第19番まで6曲も作っています。
その中でも大規模で革新的な15番、16番、17番の3作品を1ヶ月以内に書き上げていることが驚きです。
第15番は特に自信作で、技巧的で華やかさを追求しています。
セミファイナルで吉見さんも演奏されました。
第1楽章 Allegro
とても晴れやかで、亀井さんのセミファイナル最後のプログラムを飾るのにふさわしい曲です。
亀井さんが選曲しただけあって、ピアノの技巧は超高度です。
好奇心旺盛な少年が冒険に出発するようなイメージで演奏がはじまりました。
亀井さん独特の左手で指揮をするような動きもあり、音楽を心から楽しんでおられるのが伝わってきました。
1楽章、第3楽章にはモーツァルト自身によるカデンツァが残されています。
ピアニストの腕の見せ所というようなカデンツァですが、亀井さんは聴衆の心の掴み方をご存じで、今回も見事に魅せてくれました!
第2楽章 Andante
変奏曲形式でピアノソロとオーケストラが主題を分担しながら進みます。
甘美なメロディーを心の奥底に染み入るように演奏されました。
優しさの中に芯があるタッチでオーケストラとの対話も素敵でした。
第3楽章 Allegro
高揚感に満ち溢れたこの曲は、見るもの聞くもの全てに愛情を注いでいるかのようにハッピーです。
第2楽章から打って変わって、目が覚めるような鮮やかな演奏です。
亀井さんは涼やかな音色で縦横無尽に鍵盤を駆け巡り、見事なテクニックを披露されました。
最後のカデンツァがはじまると、終わってしまうのがもったいと感じるほど、あっという間の素晴らしい時間でした。
弾き終わると会場は大きな拍手に包まれました。
亀井さんの「やり遂げた」といった表情が頼もしかったです。
まとめ
私が個人的に注目している吉見友貴さん、中川優芽花さん、そして亀井聖矢さんの演奏の感想をまとめてお届けしました。
吉見友貴さんの深い分析力
中川優芽花さんの絶妙なスピード感と表現力
亀井聖矢さんのまばゆいオーラ全開のモーツァルト
素晴らしい演奏でした!
動画では取り上げられていない日本人ピアニストの方々も含めて、皆様のファイナルへの進出をお祈りしております。
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子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。