反田恭平さんの戦略!考え抜かれたショパンコンクールの選曲
選曲は最重要ですが、プログラム構成にもとても神経を使われているのがわかりました。
反田さんはまずはじめに、過去の大会(第16回大会や第17回大会)でコンテスタントがどの曲をどの段階で弾いて、どのような評価を得たかというデータを取られたそうです。
それに加えて、自分のコンサートで演奏を確かめたり、お客様の反応を感じたりすることが大きな鍵だったようです。
ショパンコンクールではソロを全17曲弾かれましたが、コンサートで色々なショパンを演奏し、6年間かけて吟味した選曲とのことでした。
本大会1次予選の選曲
本大会1次予選では
・ノクターンロ長調 Op.62 No.1
・エチュードハ長調 Op.10 No.1
・エチュードロ短調 Op.25 No.10
・スケルツォ第2番 変ロ短調Op.31
を演奏されました。
『ノクターンロ長調 Op.62 No.1』は、反田さんが好きなノクターン第1位に挙げておられた曲です。
ショパン晩年の作品ですが、ショパンは晩年になると、尊敬するバッハやモーツァルトの様式をあらためて意識し、作品にも現れるようになります。
確かにバロックや古典派の香りもする曲です。
この曲を最初に選んだ理由も、ショパンの原点を見つめ直し出発するというところにあったのではないでしょうか。
この4曲の調性を見てみると、ロ長調→ハ長調→ロ短調→変ロ短調で、主音が近い調でまとめられています。
こちらも何らかの意図が感じられます。
また、非常に有名なスケルツォ第2番を選んだ理由は、反田さんにしか出せない新しいアイデアがあり、それを表現できる自信があったからということでした。
反田さんの演奏は、耳なじみのある曲でも「内声にこのようなメロディーがあったのか!」など、驚かせられることが多いです。
さらに、音響も大事な要素なので、1次予選中に他の演奏者の演奏を何度も聴きに行き、審査員席の近くの席に座って、審査員にどういう風に聴こえているかを研究されたようです。
本大会2次予選の選曲
本大会2次予選後のインタビューでも、プログラム構成へのこだわりが感じられました。
特に印象的だったのは、同じ調性の曲を3つ連続で演奏するという挑戦的な選曲でした。
・ワルツ第4番 猫のワルツ Op.34 No.3
・マズルカ風ロンド Op.5
・バラード第2番 Op.38
・アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
『ワルツ第4番 猫のワルツ Op.34 No.3 』『マズルカ風ロンド Op.5』『バラード第2番 Op.38』がその3曲で、いずれもヘ長調です。
しかも、もう1曲は『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22 』で、こちらも華やかな変ホ長調です。
つまりオール長調です。
『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22 』は独奏版が有名ですが、管弦楽とピアノによる協奏曲的作品もあります。
反田さんが15歳の時、オーケストラとコンチェルトとして共演した初めての作品だということです。
指揮者としても活動されている反田さんは、色々な楽器が奏でるこの曲のことを熟知しておられるので、ご自分の音楽観をアピールするのに最適な曲だったのではないでしょうか。
2次予選では晩年の曲をあえて取り入れず、若々しいショパンのエネルギーに満ちた曲を選ばれたようです。
『猫のワルツ』は小さな命を、『マズルカ風ロンド』人間の個性を、『バラード第2番』はもっと大きな大自然を、というように反田さんはそれぞれの曲に込めた思いを語っておられました。
本大会3次予選の選曲
3次予選は
・マズルカ Op.56-1(ロ長調)Op.56-2(ハ長調)Op.56-3(ハ短調)
・ソナタ第2番 Op.35(変ロ短調)
・ラルゴ(聖歌):神よ、ポーランドをお守りください(変ホ長調)
・英雄ポロネーズ Op.53(変イ長調)
でした。
反田さんはジャンルで言うとマズルカが一番好きで、特にOp.56のマズルカはしっくりくるそうです。
そして、どうしても弾きたかったという『ラルゴ(聖歌):神よ、ポーランドをお守りください』。
実はポーランド人でも知らない人が多いらしいですが、知られざる名曲を伝えていくのもピアニストの使命だということで、大舞台のプログラムに組み込んだそうです。
相当勇気がいる決断だと思います。
変ホ長調のゆっくりした美しい曲で、最後の音の響きが遠のいた頃、英雄ポロネーズが同じ音から始まりました。
ストーリーが繋がる、プログラムの構成力は見事です。
ファイナルの選曲
ファイナルではピアノ協奏曲第1番を選ばれました。
この世に存在するすべてのクラシックの作品のなかで、一番好きな作品とおっしゃっています。
2019年にワルシャワ国立フィルハーモニーが来日した際、反田さんがこの曲を共演されていて、そのときの指揮者のアンドレイ・ボレイコは、今回のショパンコンクールの指揮者だったという幸運にも恵まれました。
指揮者の思考や振り方の癖も研究済みだったという訳です。
指揮者がロシア人だったため、ロシアに留学されていた反田さんもロシア語でコミュニケーションが取れたというのも大きいです。
まとめ
反田恭平さんの第18回ショパン国際ピアノコンクールにおける選曲は、綿密な分析と長年の演奏経験に基づいた戦略的なものでした。
過去大会のデータ分析、自身のコンサート経験、6年間にわたる吟味を経て選ばれた曲目は、各予選段階で巧みに構成されています。
調性の繋がり、ショパンの音楽性の表現、新たな解釈の提示など、様々な工夫が凝らされていました。
また、知られざる名曲の紹介や、指揮者との関係性を活かした選曲など、反田さんの音楽家としての使命感と戦略的思考が表れています。
この選曲と演奏が評価され、見事な第2位という結果に結びついたと感じます。
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子どもから大人までピアノ指導する傍ら、本サイト「ピアノサプリ」を開設し運営。【弾きたい!が見つかる】をコンセプトに、演奏効果の高いピアノ曲を1000曲以上、初心者~上級者までレベルごとに紹介。文章を書く趣味が高じて、ピアノファンタジー小説「ピアニーズ」をKindleにて出版。お仕事のお問い合わせはこちらからお願いします。